〜ANGEL HEART〜



「幸村君、おはようございます。検温の時間ですよ。」


看護師の留美の明るい声が病室に響く。

「おはようございます。いい天気ですね。」
幸村はニッコリと微笑む。

幸村が体温計を脇に挟んでいる間に留美は手を取り、脈を測る。


「じゃ、血圧測りましょう・・・110の、80・・・
はい、いいですよ。」

「あとで薬の処方が出てるから、持って来ますね。」

「はい・・・。」


留美が戻るとナースステーションでは婦長と主任が話をしていた。


「幸村君の血液検査の結果、良くなかったですね・・・。」
「そうね、手術も近いし、また薬を替えるんじゃないかしら。」



・・・彼は、難病だ。


現代医学では、完治は難しい。
それでも、彼は手術を嘆願した。
自分の人生のために・・・。



「・・・・・・・・。」

留美は切ない気持ちになった。


初めて担当した患者が、難病の少年だとは・・・。
手術で彼が元の生活に戻れるとは思いたくとも、現実には難しいであろうことはわかっていた。

そして、彼自身もそのことを知っていながらも手術を受けようとしていることも、辛かった。



「あ、じゃ幸村くんに薬を持って行きます。」
留美は幸村の病室へ向かった。


「失礼します。
幸村くん・・・あのね、今日からこの薬を飲んでほしいんだけど。」


「はい、わかりました。」

「じゃ、お願いね。」

「あの・・・」

「なあに!?」

「斉藤さんは、今度いつ早番ですか!?」

「ああ、私は二日置きのシフトだから、明日は夜勤よ。」

「そうですか、看護師さんって大変ですね。」

「ふふ、でもなりたくてなった職業だから。」
留美はにっこり笑った。

「じゃあ、後でね。」

留美は病室を出て複雑な気持ちになった。
「なりたくてなった職業」のはずなのに、後悔していた。
彼は、きっと将来なりたい職業には就けない・・・。

なのに、こんな話をしてしまってよかったのだろうか。
ますます自己嫌悪に陥ってしまった。



それから二週間、幸村の病状がかなり進んだ。


なんとか歩行はできるものの、指先の神経が侵され食事で箸が使えない状態だった。

「幸村くん、今夜は焼き魚だからスプーンでは食べにくいでしょう!?
私が骨を取るわね。」

「すみません。ありがとうございます。」
幸村の表情は弱々しく淋しそうにも見えた。

彼は県内でも有数の進学校のテニス部の部長だったと聞いていたが、入院当初に比べ、
病状が進むにつれ、面会に来る友達も少なくなったらしい。

最近では、病室に隣接するベランダのプランターの花の手入れもままならず、留美が水を与えていた。


”来週の手術に彼は耐えられないのではないか"

そんな声が医局でもささやかれていた。


その夜
留美は夜中の見回りをしていた。

幸村の病室に入ると
「う・・・っ。」

幸村の声が聞こえた。

「幸村くん!?起きてるの!?」

留美はカーテンを開け、驚いた。
幸村は、ダンベルを持とうとしていたのだ。

「あ・・・!!」

留美の驚き以上に、幸村は驚いていた。

「はっ・・・、あ、す、すみません・・・。」
幸村は顔を真っ赤に染め、涙ぐんでいた。


「も・・・う、死に・・・たい。」
幸村の瞳から涙が溢れ出す。

「幸村くん、気にしないで。あなたが焦る気持ちはよくわかるわ。」

留美は慌てて、励ました。


「そ・・・んな、こと・・・じゃないんだ・・・。」
幸村は震えながら言った。

「指が・・・動かなく・・・て・・・ダメ・・・なんだ・・・。」

「え!?・・・・・・幸村・・・くん。」
留美は驚いた。

「ぼくは・・・もう・・・。」

なんということだ。
幸村はほんの少しの握力さえ、すでに無かったのだ。


ポロポロと幸村の瞳から涙がこぼれる。


留美はそっと幸村を抱きしめた。


「今晩はずっと側にいてあげるわ・・・。」

「すみません・・・」


すまなそうに、そして、とても恥ずかしそうに幸村がつぶやく。

「いいのよ、気にしないで。これも仕事のうちだから。」
幸村が気負いしないように留美はうそをついた。


留美はショックだった。


普通の健康な中学生の少年ならば、簡単に出来る行為も、彼にとってはとても困難なことが・・・。


そして、留美は夜勤の見回りの度に幸村の側についていた。

「あの・・・斉藤さん・・・。」

「なに!?幸村くん。」

「本当に・・・今までありがとうございます。
多分、今夜で最後になると思います・・・。」

「幸村くん・・・」

幸村は二日後に手術を控えていた。

"もう、会えないかもしれない・・・。"
そう思うと留美は胸が熱くなった。

「ぼくは・・・斉藤さんが、好きです。」
幸村が突然告白した。

「あなたがぼくの脈を測る度に、すごくドキドキして・・・ぼくは・・・こんな気持ち初めてで・・・。」

「え!?」

留美は驚いた。患者が看護師に好意を持たれるのはうれしいことだが、初めて担当した患者に告白されるとは・・・。


「私も・・・幸村くんのことが好き。」

留美も素直に告白した・・・。


すると、幸村は全身の力を出して起き上がり留美を抱きしめた。

「斉藤さん・・・愛してます。」

「幸村くん・・・。」


幸村は留美にキスをした。

「今夜のこと・・・ずっと忘れない・・・。」

お互いそう思った。




そして、五年後。

留美は主任になり、新人の指導にあたっていた。

「へえ、すごいですね、留美先輩。そんなことがあったんですかー。」

「ふふ・・・、今でも、あの時のことよく覚えてるんだ。
彼にとって、最初で最後になったけど、彼の為になれて、すごく良かったなって思ってるの。」

「まさに、留美先輩は、白衣の天使ですね!!」

「千秋ちゃんも、頑張って患者さんの為に、天使になりなさいよ。」

「は〜い!!」


留美はふと、窓の外に目を向けた。

そこには、あのときの二人を見つめていた幸村のプランターの花が、たくさんの花を咲かせていた。


***************************

これは成人サイト「萌えて咲くのが華」でキリリクされた幸村くんのドリームを編集しなおしたものです。

本編ではかなりヤバくて(笑)切なくて悲しくてやりきれないものになってます・・・。っても、これもかなり切ないかな?(笑)

戻る

ご意見・ご感想はこちら





























女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理