〜恋のブレ球〜








「えーい!!」

ズパーン!!・・・



都内某所のテニススクールに快音が響きわたった。




「うわっ、すげーだーね。」


「んふっ、やりましたね」


「くすくす、すごいね彼女。裕太のツイストスピンショット返しちゃったね」




側で見ていた柳沢と観月と木更津は驚いていた。



「やったー!!できた!裕太のツイストスピンショット返せた〜!」



「すごいなお前、女で俺のショット返したの初めてだぜ。」



「えへへ!約束どおりパフェおごってもらうよ、裕太!」



「うぐっ・・・。」




小田瑞紀は聖ルドルフ学園中等部二年。
不二裕太と同じクラスだ。氷帝学園からこの春、聖ルドルフに転校して来た。




「ファミレス寄っていこうよ!!」



瑞紀は大はしゃぎでみんなを連れて行った。




「まったく、弟くんと小田さんは仲がいいね」



「弟って呼ぶな!!」



「あっ、ごめんごめんっ」



「ノムタク先輩、それは禁句ですよぉ〜、裕太の地雷ですからね、兄貴は!」



「まぁな、でもいつか俺は兄貴を越えるから!」



「裕太はもう兄貴を超えてるジャン。身長だけは。」



「身長だけかよ」




裕太と瑞紀のやりとりを見ていた観月は



「んふっ、本当に仲がいいですね」と、からかう。




「あっ、でも小田が観月と結婚したら『観月瑞紀』だーね。こりゃ面白いだーね!」



柳沢の言葉に観月は驚いて反論した。


「な!?なにを突然言い出すんですか!」



「くすくす、観月赤くなったよ」



木更津は楽しそうだ。



「もう、柳沢先輩も木更津先輩もからかわないで下さいよ。
観月さんは私なんかよりも年上の女性のほうが似合っていると思いますよ」



瑞紀の言葉に観月はますます顔を赤らめて



「お、小田くんまで何を急に言い出すんですか!!」
と慌てていた。



「でも最近の観月、ぼーっとしてること多いよね。
やっぱり恋わずらいじゃないの?くすくす。」



木更津はますます楽しそうだ。




「さあ、もう、行きますよ!!」



観月は話を振り切るように出ていった。




ファミレスを出て瑞紀はニッコリしながら



「今週もありがとうございました。裕太、ごちそうさま!
明日の試合、頑張ろうね!」



「ああ、また明日な。お前も頑張れよ」



「じゃぁ、みなさん、さよなら」
と、手を振り瑞紀は歩いて行った。




「ねぇ、僕の身長がもうちょっと延びたら
瑞紀ちゃん、付き合ってくれるかな?」



と木更津はみんなに聞いた。




「淳も物好きだーね。」



と柳沢があきれた様子だ。



「そんなことないよ、彼女すごくかわいいと思うけどな」



「まあ、努力家ですし、素直でいい子だと思いますけど
木更津くんとはあうかどうか・・・。」



観月もおやおやといった様子だ。



「いや、それよりあいつにはいろいろ深い理由があると思いますよ。」



裕太は思い深げに言った。




「くすくす、ここに転校して来るにはみんなそれなりに理由があるからね」



木更津の言葉に全員がうなづいた。





その頃瑞紀はぼんやりしながら歩いていた。




一年前、氷帝学園のバスケ部に在籍していた瑞紀は
同じクラスの日吉若に恋心を抱いていた。



日吉と一緒にいると胸が熱く苦しかった。



そして思い切って告白したのだ。




「ごめん。小田の気持ちはうれしいけど、俺、付き合ってる彼女がいるんだ。」





その言葉で瑞紀のすべてが閉ざされた。



日吉の彼女は親友の理恵だったのだ。


理恵は中肉中背、色白で明るい性格、
女子テニス部に所属していてレギュラーの座を射止めていた。



そしてクラスでもアイドル的存在だった。


(かなわない・・・。でも悔しい、理恵に勝ちたい!)



そんな気持ちが瑞紀の中でどんどん膨らんでいった。




そして瑞紀は聖ルドルフ学園に転校し、テニス部に入ったのだ。


理恵と対決するために。




テニスは初めてだった瑞紀だが人一倍練習を重ね
女子テニス部でも実力を付けていった。



そして身長168センチと長身の瑞紀の放つ重いサーブはどの部員も返せなくなった。




「私はもっと強くなりたい!!」




そんな一心で男子テニス部のスクール練習に合流することになったのだ。



だが瑞紀のサーブはあっさりと裕太のスーパーライジングで返されてしまった。




「こんなことでは理恵に勝てない。もっともっと強くなりたい!!」

と、毎日男子スクール組と同じメニューの練習を積んできた。




「明日の試合、負けるもんか!」

瑞紀は理恵へのリベンジに燃えていた。




そのとき瑞紀の携帯が鳴った。



画面には『不二周助』と表示されていた。

「もしもし?」

瑞紀は困惑しながらも出た。

「あ、瑞紀ちゃん。もう、練習は終わったの?」


「あ、はい。今帰りです」


「そう。明日の試合頑張ってね。」


「あ、はい。兄貴も頑張って下さいね!」


「あはは、瑞紀ちゃん、『兄貴』はないだろ?周助でいいのに。」


「あ・・・。いえ、そんなこと言えないです!」

瑞紀は動揺した。



「それって・・・昨日のこと怒ってる?本当にごめんね・・・。」


周助の声のトーンが下がった。



「あ、そんな、気にしてないです。私。」

瑞紀は慌ててフォローした。



「そう、ならよかった。じゃ、明日会場で会おうね。おやすみ。」


「おやすみなさい。」


瑞紀は電話を切り、ため息をついた。


昨日、瑞紀は周助と会っていた。



そして、



「君が好きだ」




と告白されていた。




不二周助は中学テニス界では、各学校にファンクラブもあるほどの人気者だ。



そんな憧れの彼に告白されてうれしくない訳はない・・・



はずなのに瑞紀はときめかなかった。




まだ若のことが頭から離れない。


それに理恵への執念で気持ちがいっぱいだったのだ。





そして翌日、都大会決勝戦、瑞紀はシングルス2で理恵と対戦することになった。




「いよいよこの時が来たわ!!
ここで私が勝てば聖ルドルフ女子テニス部は都大会優勝だわ!」




瑞紀は審判のコールとともに渾身の力を込めてサーブを理恵のコートへ打ち込んだ。


次の瞬間、会場は悲鳴とどよめきで埋まった。


理恵は瑞紀のサーブを返そうとしたがラケットをはじかれ、勢いでその場に倒れ込んだ。




「相手校選手負傷により、棄権のため、聖ルドルフ学園の勝ちとします!」



瑞紀はあっけなく理恵に勝ってしまった。




「理恵!!大丈夫か!?」



日吉が理恵の側に駆け寄り、抱き上げる。




「あ・・・。若。」



瑞紀は泣いている理恵を抱いている日吉の姿を見て愕然となった。




《試合には勝ったけど、理恵には負けた・・・。》




そんな思いで胸がいっぱいになり、会場から離れた場所でぼんやりとしていた。




そこへ



「瑞紀!」


と声をかけられドキッとした。




「この声は・・・若!?」



瑞紀が振り返るとそこにいたのは




「あ!?赤澤部長・・・?」




「おい、なに驚いているんだよ?」



「あ、いえ、その・・・。」



瑞紀はびっくりした。赤澤の声が日吉の声に似ていたからだ。




「お前、すごいな。ワンショットで決めちまうなんてよ。」



「あ、ありがとうございます。」



「お前、すごく頑張っていたもんな、女なのに感心したぜ」

赤澤はニコッと笑った。




「え?」



「こんな細腕でよく頑張ったよな」



「そ、そんな。細くなんかないですよ!」



瑞紀は慌てた。



「何言ってんだよ、俺からみればお前なんか細腕のかわいい女の子なんだよ」


そう言って赤澤は瑞紀の腕をつかんだ。




《うわっ、がっしりして大きい手!!》




瑞紀は見上げて更にドキッとした。




《この人から見れば、私、女の子なんだ・・・。》




周りには同じくらいの背丈の男子しかいなかったので
身長178センチの赤澤は瑞紀にはとても大きい存在だった。




「あ、わりぃ。痛かったか!?」



赤澤は慌てた。



「あ、そんなことないですっ。」



「そうか?よかった。いきなり女の子にこんなことしちまって悪かったな。」



赤澤はちょっと照れた感じになった。




「あははっ、なんか女の子扱いされてうれしかったです。」



瑞紀もちょっと照れた。



「何言ってんだよ、女の子だよ、お前は・・・。
んじゃ、困ったこととかあったら何でも話せよ、俺、一応部長だから。」



「あっ、はい。ありがとうございます」



「じゃあな・・・。」




去っていく赤澤のことを瑞紀はずっと見ていた。



こんな風に《自分のすべて》を包み込んでくれるような人は初めてだった。




「なんか、まだすごくドキドキしてる・・・。
どうしちゃったんだろ、私・・・。」







瑞紀の気持ちよりも先に、本能が恋に落ちた瞬間だった。




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日吉と赤澤って同じ声優さんなんで、
ただそれだけのつながりからこんな意味不な話書いちゃいました(笑)

実は私、中二の時に168センチとデカかったので(それから止まりましたが)
「自分より背が高い男」なら誰でもいいなー、なんていう
ゆがんだストライクゾーンを持ってました(笑)

これはそんな当時のコンプレックスを思い出しながら書いてみたものです。

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